「ミレーユぅぅ〜・・・」


泣きながらバーバラがマーズの館の扉を叩いたのはほんの数時間前のことだった。
どうやらデート中にテリーと喧嘩をしたらしい。泣いて取り乱しながら彼女が話す内容は要領を得ず、漸く分った事実はこれだけだった。
ミレーユが必死に、あやす様にバーバラをなだめているのをボケーっと眺めながら俺は彼女の涙の原因である人物を心の中で呪った。





- 隣芝 -







「なんでお前と食事しなくちゃいけないんだ」

「うるさい。オレは別に食事はしていない」


はぁ、とわざとらしいため息をついて目の前の、先刻まで愛しい人が座っていた席に座る青年に恨みがましい視線を送る。


「お前がバーバラと喧嘩なんかするからミレーユを取られた」


ポソリと、だが最低限聞こえるように言ってやった。


「っ・・・・・・」


どうやら返す言葉がないらしい。当然だ。俺とミレーユの華麗なる室内デートを台無しにしてくれたのだから反論なんてさせてやるもんか。ちなみに女子二人は今ミレーユの部屋にいる。バーバラの後を追ってここへ駆け込んできたテリーに向かってミレーユは冷たく言い放った。


「バーバラは今あなたに会いたくないそうよ。少し外で頭を冷やしておいでなさい」


そうしてバーバラと二人、自室にこもってしまったのだ。
先程までミレーユと楽しく食事をしていた(しかも料理は彼女の手作りだ)俺にとっては何ともはた迷惑な話である。

目の前の男はあーだのうーだの呻きながら一人頭を抱えている。普段はすれ違う女が皆振り返る様な大層整った、所謂美男子と形容されるに相応しい器量の持ち主なのだが如何せん今はそんな輝かしい栄光は微塵も感じられないくらいみっともない姿を晒している。こいつを見ていると、恋というものは恋人はおろか周囲の人間に自分のみっともない姿を晒す代表例なのではないかと錯覚してしまう。
そうして、頭を抱えて項垂れる目の前の男が少しばかり哀れに思えてきたのでとりあえず言い訳くらいは聞いてやろうかという気になった。


「だいたいどうして喧嘩したんだよ」

「っ・・・喧嘩じゃ・・・ねえ」

「いや明らかに喧嘩だろう。泣いてたじゃん、バーバラ」

「・・・・・・・・」

「どうせまたお前がデリカシーのないこと言ったんだろう」


お前空気読めないもんなあと付け足すと目の前の二つの瞳がきょろきょろと泳ぎ焦ったように反論された。


「ちがっあいつが急に泣きだしたんだよ!」

「どうだか〜。お前本当にもう少しバーバラを大切にしてやれよ?俺みたいにさ」


フッと鼻で笑うとテリーがこちらをギロリと睨んできた。ミレーユと同様、美しく整った顔はそういうときでも恐ろしく完璧でやはり姉弟なのだなぁと暢気に考えているとその本人に思いもよらない暴言を吐かれた。


「お前だって一方通行のくせして」


聞き捨てならない言葉だ。ピクリと顔が引きつった。


「一方、通行・・・・・?」

「そんな感じだろ」

「どういう意味かなテリー君」

「そのまんまの意味だよ。どっからどう見たってお前が姉さんのことを好きすぎて一人空回っているようにしか見えない」


とんでもない暴言だ。しかし無情にもあながち外れていない指摘に俺の繊細な心はひどく傷ついた。じんわりと眼の縁に暖かいものが込み上げてくる。いやいや駄目だ駄目だ。そんな、涙なんか流しては奴の言葉を事実だと認めてしまうことになるではないか。必死に込み上げてくるものを抑え込みキッと目の前の無礼者を睨むと向こうもこちらを同じように睨んでいる。
結構な時間じりじりと睨みあっているとふとテリーが苦しげに言葉を吐きだした。


「あいつに泣かれると、どうしていいのかわからなくなる・・・」

「・・・・・は?」

「・・・・・泣かせたのは自分のせいだとわかるがなぜ泣くのかわからない。わからないから取りあえず謝ったら理由もわかってない癖に謝るなと今度は怒られるんだ」

「・・・・・・・」

「そうなるともう何が何だか・・・。あいつは本当にオレのことが好きなのかすらわからなくなるんだ・・・」




「オレは本当にバーバラのことが大切なんだ・・・」

「わかる!!!!!!!俺もミレーユが大切でたまらない!」

「・・・・・っオレが見たいのはバーバラの笑顔なんだ!泣き顔や怒った顔じゃないんだ!」

「俺はどんな顔のミレーユも見たいんだ!ミレーユの表情は全部一人占めしたいんだ!」

「いつも笑っていてほしいんだ!」

「どんな表情も見守っていたいんだ!」

「だって」

「どうしようもなく」




「「好きなんだ!!!!!!」」















【END】



2010.4.23
なんぞこれ・・・もはや意味がわからないorz