ま ず は ご 挨 拶











「周囲の同意なく喫煙するのってどうかと思うのだけど」



思えば初っ端から怒られたんだ。













新しい世界にうきうきしながら入学した大学。憧れのキャンパスライフ。
朝まで友人達と飲み明かしたい。
かわいい女の子と遊びたい。
サークル入るのもいいな。
はやる心に胸を躍らせながら俺は今入学式の後、エントランスで誘われた新歓コンパに参加している。


年に一度の新入生歓迎コンパは貴重な人員確保イベントだからだろうか、そのサークルのコンパは街の居酒屋で盛大に執り行われた。これがまた新入生は一切参加費不要というのだから驚きだ。タダ飯にありつくためだけに参加している人間も少なくない。
もちろん俺もその口だった。いよいよ真剣に勧誘されたら曖昧にしてかわそうと思っていたのだ。




新入生と言えばほとんどがまだまだ未成年である筈だがそんなことはお構いなしに次々と酒は運び込まれてくる。いやはや大学生というものは高校生とさして年齢も変わらないのになんとも開けた世界にいるものだ。

傍らではこの席で少し仲良くなった男が次々出てくるカラフルなアルコールを物珍しそうに見ている。


「酒飲んだことないのか?」


と問うと


「ああ初めてだ。どれも上手 い」


満足気な答えが返ってきた。
答えたそいつの顔は大変整っており所謂世間一般の美形というやつに振り分けられる器量である。先程から斜め前の女の子たちがちらちらとこちらを……失礼、俺の隣りを伺っているくらいに。こいつと仲良くなれば女の子は勝手に寄って来そうだぞとぼんやりと思った。


他人はさておいて、俺は高校生の頃から酒も煙草もひととおり好んでいたからそれらの嗜好品には新鮮さの欠片も感じなかった。加えて酒にはあまり強くないのでとにかく目の前の美味しそうな料理を胃にかき込んだ。味は悪くない。むしろもう一度来てもいいと思うくらい美味しかった。
一人頷きその店の名前を頭の中に刻み込んだ。また今度来よう。





宴会は酒の力も手伝って、順調に盛り上がりを見せている。
上級生はというと早速いくつかのグループに分かれて新入生を落としにかかっていた。まぁ当初の目的が新入生の勧誘なのだから何もおかしなことではない。けれど自分は別段このサークルに入る気はなかったのでまだ輪に加わっていない上級生たちがこちらのテーブルを見やり腰を上げるのを認めると同時にトイレに逃げた。絡まれるのは面倒だ。



****



トイレから戻ってくると先刻まで俺が座っていた席は上級生が陣取っていた。例にもれずあのイケメンも捕まっている。
ああよかった逃げて。
思いながら取りあえず手近なところへ腰を下ろした。そこら中で既に輪ができ上がっているため一人ポツンと取り残されたが、 まあ目的(食事)は果たしたからいいか、と考えポケットから煙草を取り出した。
酒を飲むと無性に吸いたくなる。酒を飲んでなくとも毎日吸うのが日課になっている。十代で既にこれなのだからいただけないとは思うのだが如何せん、やめられないのだ。
箱から1本取り出し口に咥えライターの火をカチリと点けた瞬間声がかかった。


「周囲の同意なく喫煙するのってどうかと思うのだけど」


え?と思い声のした方へ顔を向けるとそこには嫌悪の表情を隠しもせずに顔に出している女がいた。
一目見て、しまったと思った。
彼女は一言で言うと、美人だった。

顔をしかめてはいるがその造りは整っており切れ長の目に白い肌、長く緩やかな髪。誰が見たって全員が全員美人だと言うほどに何から何まで完璧だった。
そんな美人をあろうことか怒らせてしまった。なまじ顔が整いすぎているからそれはそれは怖い。完璧すぎて怖いのだ。
あわてて煙草を口から離し、すいません、と頭を下げて謝った。
そうして、おそるおそる顔を上げると、


「わかってくれたらいいのよ」


それはそれは美しい満面の笑顔で返された。



ドクン



心臓が跳ねた。そうして、





ああ、堕ちた





無意識に開いた口をそのままに、頭の隅でぼんやりと思った。








2010.4.5
二人の出会い編